
子どもアドボカシーとは――子どもの声を社会に届けるために
「子どもアドボカシー」は、子どもを「保護の対象」としてだけでなく一人の権利主体としてとらえ、子どもの意見や希望が、制度や組織の意思決定にきちんと反映されるように働きかける取り組みを指します。
語源は「マイクのように声をより大きく届ける」に近いイメージですが、実際に声の大きさを競うことではありません。
大切なのは、子どもが自分の言葉で状況を理解し、納得できる形で選択できるようにすることです。アドボカシーは、学校、医療、福祉、司法、地域のあらゆる場面で活用され、子ども自身の尊厳と安全を守るための土台となります。結果として、誤解や不信を減らし、関係者の対話を促す効果も期待できます。
子どもアドボケイトとは――独立性と子ども中心性
「子どもアドボケイト」は、子どもアドボカシーを実践する人の呼び名です。子どもアドボケイトにも、立場によって複数のかかわり方がありますが、ここでは「独立アドボケイト」について説明します。
「独立アドボケイト」は、子どもの側に立つ立場の独立性と、子ども中心の視点を一貫して保つことにあります。アドボケイトは、学校や施設、行政の指揮命令を受けるのではなく、子どもから見て安心して話せる第三者であることが求められます。独立性が確保されているからこそ、子どもは利害関係に左右されずに気持ちや考えを伝えやすくなります。
また、アドボケイトの役割は「代弁」よりも「伴走」に重心があります。情報をわかりやすく伝え、選択肢を整理し、決定の背景を説明することで、子ども自身の意思を尊重する空気を整えます。資格は法定されていませんが、各地で養成講座や研修が広がり、倫理や守秘、記録の基本が共有されつつあります。
用語の整理――混同しやすいポイント
「アドボカシー」は活動の総称で、「アドボケイト」はその担い手です。例えば福祉職や心理職が担う「相談支援」は生活課題を広く扱い、弁護士や司法書士などの法律職が担う「弁護」は、法的利益の擁護に重点があります。
アドボカシーは、その双方と連携しながらも、意思決定の場に子どもの意見を確実に入れることに重心があります。また、「代弁」と「伴走」は似て非なる言葉です。代弁は言葉を置き換える行為に寄りがちですが、伴走は、子ども自身の理解と選択を支える姿勢を意味します。
子どもの権利条約とアドボカシー
子どもの権利条約は、子どもを権利の担い手として扱う国際的な約束です。
核になる一般原則は、差別の禁止、子どもの最善の利益、生命・生存・発達、意見表明とその尊重の四つです。アドボカシーに直結するのは、とくに「意見表明権」と「最善の利益」です。
子どもは自分に関わることについて意見を言うことができ、その意見は年齢や成熟度に応じて正当に考慮されます。同時に、決定は子どもにとって最も良い利益に資するよう検討され、理由が説明されることが求められます。条約はまた、わかりやすい情報へのアクセス、プライバシーの尊重、偏見のない扱いなど、日々の関わりに直結する要素も示しています。これらは、単なる理想ではなく、制度づくりや職場の規程に落とし込むべき基準です。
児童福祉法の改正――「声」を手続きの起点に
近年の児童福祉法の改正では、子どもの意見表明を支える仕組みが明確になりました。意見表明等支援は努力義務として位置づけられ、一時保護や措置を検討する際には、原則として事前に意見を聴き、緊急時で事後となる場合でも速やかな説明と見直しが求められます。
さらに、一次保護所の運営基準が示され、私物の管理や連絡、通学などの制限は画一的に課すのではなく、個別の必要性に基づいて最小限に留める方向が強調されました。根底にあるのは、「子ども一人ひとりに合った配慮」を制度の側が責任を持って実装するという発想です。子どもが理解できる言葉での説明、合意内容の見える化、不服の申立て先の明示など、透明性を高める工夫も不可欠だと考えられています。
こども家庭庁と政策の流れ――「子どもまんなか社会」へ
こども家庭庁の創設は、分散していた子ども政策を統合し、常に子どもの最善の利益を第一に考える体制を整えるための一歩です。子どもや若者の意見を政策に反映させる仕組みづくり、パブリックコメントの活用、民間との協働など、総合的な推進が進められています。
ここでもアドボカシーの視点は重要で、政策形成の各段階で子どもの声が確実に拾われ、反映結果が説明されることが期待されます。司令塔機能が一本化されたからこそ、現場と政策の距離を縮め、実態に合った見直しを重ねていけるかが問われます。
国際的な潮流と日本のこれから
海外では、子どもの意見を政策に組み込む仕組みが着実に整えられています。たとえば、自治体に独立したオンブズ機能を置いて苦情や提案を受け付けたり、学校や医療現場で当事者委員を恒常的に招くなど、意思決定のプロセス自体を開いていく工夫が進んでいます。
共通するのは、指標やレビューを公開し、改善の経過を社会と分かち合う姿勢です。日本でも、子ども・若者の参画を継続的に位置づけ、第三者評価と情報公開を広げていくことが、アドボカシーの実効性を底上げします。条約と法律が示す方向に沿って、地域の文化や言葉に合う方法を丁寧に育てていくことが、私たちの次の課題だといえるでしょう。
これからに向けて――ともに学び続けるアドボケイトに
アドボカシーは、学び続ける文化によって支えられます。条約や法律が示す方向性を踏まえ、現場では記録と振り返りを重ね、組織では第三者の視点を取り入れて改善を続けます。
社会全体としては、子どもを対等な構成員として迎える姿勢を広げることが求められます。難しい専門性に見えても、根底にあるのは「聴く」「尊重する」「説明する」というシンプルな価値です。
子どもが安心して意見を言える環境は、周りの大人にとっても働きやすく、地域にとっても信頼を育てる土壌になります。アドボカシーが当たり前になるほど、私たちは互いの違いを尊重しながら、より良い決定を積み重ねていけるはずです。